【リバイバル・50日目】2分の芝居を1日1本、50本書いていく『コクーン』【#てれアクト】

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家で1人で、誰でも演じることが出来て、スマホがあれば撮影も配信もできる、2分20秒以内の1人芝居企画「てれアクト ~workfromhomeactors~」} そんな「てれアクト」のための脚本を、2020年5月7日から1日1本、50日連続で50本書いていました。 ただいま、1周年を記念してのリバイバル投稿中です。

最終日、50日目の脚本は無料サンプルとして公開致します。

 

50日目
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コクーン

〇登場人物
 ずっと部屋から出れない人物

 

人物 緊急事態宣言がでるずっと前から、自分の部屋から出ることができません。都内の駅近のマンションに家族と住んでいて、昼間は寝て、夜は窓を開けてラジオを聞いたり動画を見たりして過ごす生活をしています。

 

人物 部屋の窓からはいつも、日付が変わってもしばらくは明るい駅が見えて、駅前を行き来する人が見えて、24時間営業のファミリーレストランやコンビニの明かりが見えていました。だけど4月くらいから、レストランは夜の10時で閉店になって、コンビニや駅は明るくても、行き来する人があんまり見えなくなった。

 

人物 5月19日の深夜、マンションの部屋を出て、いつも上から見ていたコンビニに行きました。店には店員さんしかいなくて、自分は多分、その店員さんが明け方、ゴミ箱の袋を変えるところを何度も見ているのだけれど、顔も名前も性別も知らなかったその店員さんは「吉野さん」という人でした。税込108円のアイスを買ってレジに持っていったら「温めますか?」って聞かれて、なんかつい反射で「はい」って言っちゃったんですけど。吉野さんがすぐ気づいて「あ、すみません」って言って笑って、それに自分も笑って。それで、入った時は何も言われなかったんですけど、コンビニを出る時には「ありがとうございました。またお待ちしておりまーす」って言われて。ああ、コンビニってこんな感じだったなあ、なんてことを思い出していたら、空が明るくなってくるのを見ました。私がいつもマンションの部屋の窓から見ていた駅や駅前のロータリーには、まだ全然人がいなくて。ああ、こんな空白がある世界なら、自分は安心して外に出れる。そう思った。

 

人物 それからしばらくしたら、駅前の人通りは元に戻ったけれど、ファミリーレストランは夜22時までしか開かなくなって、明かりで埋められる景色が、少しだけ変わりました。

 

人物 自分がコンビニに出かけた夜のことを思い出します。世界全部が自分と一緒に夢うつつだったようなあの時間。またお待ちしてますって言われたことを、今も手のひらで握っているような気がします。また明日会えばいいとか、また明日やればいいとか。それは絶対のない約束で、夢のようなものかもしれないけれど。安全でも安心でもない海を泳ぐようにして、自分達が世界中でそういう夢を生きていることを思います。

                                     了
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PDF脚本はこちらから
㊿コクーン.pdf - Google ドライブ

 

劇作家モスクワカヌ、自分の生存戦略のために脚本を書いてみるプロジェクト

てれアクト
~work from home actors~

■てれアクトとは
家で1人で誰でも演じることが出来て、スマホがあれば撮影も配信もできる、2分20秒以内の1人芝居の企画名。

■モスクワカヌが挑戦すること
・「てれアクト」用の2分20秒以内の1人芝居を50本書く
・毎日1本、無料もしくは有料の脚本を公開していく
・2020年3月以降の日本で暮らす人々のことを書く

■脚本利用について
noteにてご購入いただいた脚本は、ご購入者様自身での上演・配信にご利用いただけます。(サンプルとして無料公開している脚本はどなたでもご利用いただけます。)この企画に関しては、モスクワカヌへの上演許可の申請は必要ありません。
また配信の際には「#てれアクト」「#workfromhomeactors」のハッシュタグをつけて頂けますと幸いです。(見つけるため)

著作権について
このnoteで公開している作品の著作権者はモスクワカヌになります。
許可のない改変、剽窃、盗用はされませんようお願いいたします。